約 220,417 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/127.html
そのいち「前夜」 僕はモニターから目を離すと、そのままPCの傍らで座っている体長15㎝ほどの『少女』に視線を移す。 僕の視線に気が付いた『彼女』は、僕の目を確認すると「にひゃー」と満面の笑みを浮かべた。 「もう少しだけ、我慢してくれるかな?」 「全然平気なのですよぉ♪」 彼女――MMS TYPE CAT 機体名『猫爪』、固体名『ティキ』――は歌うように答えた。 その言葉に僕は少しだけ笑いながらうなずくと、眼鏡を上げて再びモニターに目を移す。 もう一息だ。 僕は緑色の装丁をしている炭酸飲料をあおるように口に流し込んだ。 これは僕がティキと初めて会った時の話。ほんのわずかだけ前の事。 その頃の僕は、オタク気質のクセにいまどきの高校生のフリをしていたから、まるで武装神姫については知識が無かった。……もちろん興味はあったが、やっぱり高校生としての見栄もあったからチェックなんてしてなかった。 個人的な不幸と、身内の不幸。そしてチョットばかりの幸運が僕とティキを引き合わせたんだ。 順を追って説明すれば、ある日何の前触れもなく僕はそのとき付き合っていた彼女に振られた。彼女から告白してきたというのに、二股を掛けられていたのだ。……僕らぐらいの年齢じゃ、それだけでかなりの不幸を味わえる。 で、そのショックから立ち直る時間も与えられず、僕は親父を亡くした。さして仲が良いってワケでもなかったが、彼女に振られた事なんて消し飛ぶくらいには頭が空っぽになれた。 幸い、母方の祖父が僕らを援助してくれると言ったので、僕と母は路頭に迷う事無く済んだけども。 葬儀が終わりしばらく日がたった後、親父の私物の整理をするため、僕は初めて親父の書斎に入った。 その時発見したのがティキだった。 親父の書斎で机の上に行儀良く座ったまま、その初めて見る武装神姫は声も上げずに涙を流していた。……親父が死んでから、ずっと一人で泣いていたんだろうか? 彼女は僕に気が付くと、ビクッと体を震わして身構えた。そして一目散に机の上にあるモニターの影に走ると、恐る恐る顔だけを覗かせて、 「……誰、なのですかぁ?」 とか細い声で問いかける。 正直に告白します。最初見たとき父に対して怒りに似た感情を持ちました。40後半になろうというおっさんが、家族にも内緒でなにを後生大事に持ってたんだ! と。 だから仕方が無いよね。と先に言い訳をさせて欲しい。 「――っ!! 人に名前を聞く時は、まず自分から名乗れよ!」 親父に対する苛立ちと、悲しさと、怒りと不甲斐なさに、僕はその罪も無い神姫に思わず怒鳴ってしまったのだ。 その途端、 「ふっ……ふえ……ふえぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~」 見る見る間に彼女の目は涙で一杯になり、声をあげて泣き出してしまった。 あぁぁぁぁぁぁ~~~~~ 何で玩具に涙なんかが流れる仕組みを作ったんだぁぁぁぁ。とメーカーに文句の一つも言ってやりたい気持ちもあったが、僕はいきなり泣き出した彼女を見たせいで冷静さをとりもどす。 ……どちらかと言えばショックで正気に戻った、と言う方が正しい。 とにかく、僕は彼女が泣き止むまで懸命に宥め賺し、ひたすら謝ったのだった。 「いや、大体話はわかったけどさぁ……」 「ダメなのですかぁ?」 どうにか落ち着いた彼女から一通り話を聞いた僕は、生前親父が使っていた椅子に座って途方に暮れた。 要するにオーナーになってくれないかと言う申し出なのだが、先にも述べた様にその頃の僕は自分の中にあるオタク気質というものを一切否定して暮らしていたのだ。だから、『武装神姫を所有する』=オタクという図式に自分が組み込まれることに躊躇し、しぶっていた。 いや、だって、ねえ? オタクである事を隠している人になら、きっと共感してもらえると思うんだけど…… 「やっぱりダメ……ですかぁ?」 「うっ……」 彼女は瞳を涙で一杯にして、ウルウルと僕を見つめながら首をかしげる。 それって、卑怯じゃないか? つい最近彼女に振られたばかりで女の子のそういう仕種を見るのがご無沙汰だった僕は、その表情にやられそうになる。 あぁ、今ならわかるよ。武装神姫にのめり込んで溺愛する人の気持ちがっっっ! …………………… あ……れ? 何かが天啓のように僕の頭に引っかかった。悪魔の誘惑とも取れるのだけども。 一体今の僕が、誰に対して格好をつける必要があるのか? 一回でもそんな考えが頭を過ぎると、後は坂道を転がる石の様。 好きだと感じれる事や、興味をそそられる事に遠慮して、一体僕のなにが守られるのか? 格好つけて見せるべき対象である彼女には先日見事に振られ、その彼女と釣り合いが取れるように張っていた見栄やプライドにも、今では何の意味も無い。 僕はじっと僕の目を見ている彼女の、涙が溜まっているけどまっすぐなその瞳を見て、口を開いた。 「……そうだね。自分から逃げていてもダメだよね」 多分、世間で言う所の『一般常識人』は、この時の心情から出てくるその言葉に矛盾を感じるんだろう。 多数意見に寄りかかり、他を排除し、否定してしまう人たちには、『安寧のために現実に逃げるのを止め、夢中になれる自分の本当に目を向ける』という幸せは判らないんだ。……今までの僕がそうだった様に。 「決め、た。僕はこれから君と一緒の時間を過ごすよ。……親父の代わりとしては、役者不足だけど、ね」 僕は笑う。そして…… そして彼女は怒った。 「違うのですよぉ! 誰も誰の代わりにはなれないのですよ! だから、貴方は貴方なのですよぉ……」 驚いた。そして不覚にも感動してしまった。それこそそれは、たった今自分が決意した事を肯定する言葉なのだから。 そして彼女はにっこりと目を糸の様にして笑うと、 「というわけで、これからよろしくなのですよぉ♪」 と言って右手を差し出す。僕はその手に右手の人差し指で応じた。 「こちらこそよろしく。僕の名前は『藤原雪那』君の名前は?」 きっとその時の僕の顔は、泣き笑いに近かったに違いない。 そのとき初めて、親父が死んだ事を、心が理解したんだ。 「よし、出来たっと」 僕はそういって背もたれに体を預けた。炭酸飲料の缶の中身は、すっかり空になっている。 「マスタ、お疲れ様なのですよぉ♪」 そう言うと、ティキは僕に笑顔を見せる。そっちこそお疲れ、と言いながら、僕はティキとPCを繋いだコードをはずした。 「ふにゅうぅ……っぅうんん……ぅんっ」 ティキが体を震わす。 「……大丈夫?」 「っふぁ……大丈夫……ですぅ☆」 ティキはいつもコードを外す度に、今みたいなチョット鼻にかかったような声をあげて体を小刻みに震わせる。 ……不具合か何かなのかな? その度に僕は不安を感じるのだが、当のティキが「何でも無いったら何でも無いのですよぉ!」と顔を赤くしてまで強く言うので、僕としてはそれを信じるしかない。 「さて……と、これで今度のデビュー戦の準備が整ったね」 「ハイですぅ♪」 デビュー戦。と言っても公式戦に出るわけではなく、あくまで草試合。付け焼刃で知識を集めた僕は、それでもようやくバトルへ参加する事が出来るようになった。 親父もそっち方面に興味があったらしいが、時間が無いくせに凝り性なため、ついぞバトルに参加する事は無かったそうだ。 「取りあえず試運転と行こうか。装備付けてみよう」 そういって僕は基本のパーツを付けていく。基本、と言っても猫爪の基本武装ではない。 親父は他の神姫の素体は一切保有していなかったくせに、何故か第二段までの各々の基本武装および、TYPE RABBITの武装だけをコンプリートしていた。……ヴァッフェバニーって、コアパーツ付いてなかったっけ? とにかくそんな訳だから、僕はティキの特性と、自分の好みとで好きにパーツを選べると言う、他のオーナーから恨まれても文句言えない贅沢を味わっている。 そんな中から僕が選んだのは―― 鉄耳装・改 buAN FL012 胸部アーマー exOPT KT36C1 キャットテイル exAM FL013 01スパイクアーマー ×2 exOPT VLBNY1 リフトガード/L・R exOPT VLBNY1 脚部アーマー/R exOPT VLBNY1 収納ポケット/L・R WFブーツ・タイプ・グレイグ/L・R リアウイング AAU7 で、リアウイングにオリジナルの情報集積ユニットを搭載し、有線で鉄耳装・改と繋げている。空いている左大腿部には、自作の鞘を装備させておいた。 更に武装として、 モデルPHC ハンドガン・ヴズルイフ 親父のコレクションにあった西洋剣 GEモデル LC3レーザーライフル ちなみにLC3レーザーライフルはお手製接続パーツによりリアウイングに装着した。 「で、この剣は一体なんなんだ?」 「風の魔装機神の剣ですよぉ♪」 「???」 「でぃすかったーって言うのですよぉ♪」 「あー……いや、知らない、悪かった…… で、どう? 付け心地悪いところ無いか?」 「大丈夫なのですよぉ♪ と言うよりむしろ快適無敵なのですぅ♪」 そういうとティキは早速、広いとはいえない部屋の中を飛び回る。 「マスタ、ティキはこの装備がとっても気に入ったのですよぉ♪」 「そいつは良かった。ティキが気に入ってくれたんだったら僕も嬉しいよ」 本当に楽しそうに飛び回るティキを見て、僕もなんだか幸せな気分になってくる。 しばらく飛んでいると、ティキは僕の頭の上に降り、そしてそのままうつ伏せになる。 「さすがに少し疲れたですぅ☆」 「あはははは、まだ慣れていないからね。明日から少しずつ慣れていこうな」 「ハイですぅ♪」 僕はティキの元気のいい返事を聞くと、頭にティキを乗せたまま電気を消し、親父の書斎だった部屋を後にした。 「明日天気が良かったら外で飛んで見よう」 「本当ですかぁ☆ うっれしいのですよぉ♪」 僕らはまだ本当の意味で過去の思い出から巣立ってはいないのだろう。でも、それでも僕は前を見る。あの日の決意と、君のくれたあの言葉を胸にして。 終える? / つづく!
https://w.atwiki.jp/nekokonomasuta/pages/20.html
『3/21』 ○【回避ボーナス/ペナルティ】追加。 『3/20』 ○技能【ツインアタック】追加。 ○技能【連携攻撃】の消費TPを3に増加。 『3/19』 ○追加技能を、追加・修正。 ○射撃武器一覧のCPを一部変更。 ○ハイパーチャージャー系装備追加。 ○外装パーツリストを新設。 『3/18』 ○カスタムパーツ修正。 ○特殊武器としてスモークグレネード関係を追加。詳細はMixiにて ○フォートブラッグの砲撃モード修正。 『3/17』 ○カスタムパーツ増加・修正。 ○移動属性に関して追加事項(暫定版/後日修正予定) 『3/15』 ○エラッタ面を改善。 ○ヴァッフェバニー用各パーツ修正。 ○アーンヴァル用各パーツ修正。 ○【背部ユニットの複合拡張について】にサイズ制限事項を追加。 ○ショルダーミサイル関連のデータを変更。 『3/14』 ○β版データ用に大幅更新。各種ルール追加。 ○追加ラックを各装備に大幅増加。 ○旋回値の上昇を、実質10レベル単位に変更。 ○一部神姫の武装命中修正。 『3/13』 ○ヴァッフェバニー【基本性能】修正。 ○フォートブラッグ【基本性能】修正。 『3/12』 ○武装神姫一覧にバリエーション機体として 【量産型アーンヴァル】 【 フォートブラッグ-ADAMS-追加。】 ○ヴァッフェバニー【STR6ミニガン】能力修正。 ○ストラーフ各種データ修正。 ○紅緒【特殊】IV+3追加。 『3/11』 ○ツガル【基本能力値】及び【特殊】修正。 ○ハウリン【特殊】変更。 ○マオチャオ【旋牙(シャンヤ)】各能力変更。 ○【ぷちマスィーンズ】特殊能力を変更→変更取消。 『3/10』 ○αテスト中【不死身】技能の習得、使用不能。 ○【飛行ルール】に関する新設定。 それに伴い、ジルダリアハイパー化の移動特性を飛行 VTOLに変更。 ○ジルダリア【ボーレンホーミング】能力修正。 ○ヴァッフェバニー【STR6ミニガン】【カロッテTMP】能力修正。 ○フブキデータ更新。 ○フォートブラッグ【基本能力】【特殊】能力変更。 ○ツガル【基本能力】【武装データ】修正。 ○【技能・一斉発射】使用可能武器を【射撃武器】と明記。 ○アーンヴァル【LC3レーザーライフル】弾数変更。【技能リスト】変更 ○追加技能新設。 ○ハウリン【吼莱一式】間接攻撃可能に変更。 ○ストラーフ【S・R・G・R】各種能力変更。 『3/9』 ○【α版Ver2,0】へ移行。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1684.html
{鋼の心~Eisen Herz~VS双子神姫~学生同士の大決戦!勿論ポロリはないよ!~} 「あぁ~あ。負けちまったよ…」 「今回のバトルはアタシの勝ちだね♪」 俺は肩をダルそうにすくめながら溜息を吐く。 婪の奴はルンルン気分で笑っている。 「チクショー!あともう少しだったのに!!あんな所でヤられるなんて!!!」 「まだまだだね。でもそれなりに格闘はレベルが上がっているみたいだから、その調子で頑張ればいい」 「勝てなきゃ意味がないんだよ!…ボク、格好悪い~」 筐体から出てきたクリナーレを右肩に座らせるなり、バトルに負けた事に悔しがる。 婪の神姫の藍がクリナーレに格闘の助言をしていたが、多分クリナーレは悔しがっている方に夢中で聞いてないと思う。 今いる所は武装神姫センターのバトル施設にいる。 でも今回は地元の神姫センターではなく隣街にある神姫センターに来ているのだ。 実は婪の奴が服を買うのに付き合ってくれみたいな事を言われて、わざわざ隣街でつきあわされ、挙句の果てにバトルまでやろうと言い出し今の至る。 まぁ、どうでもいいけどね。 大学生は意外と暇人だから家に居てもやる事ないし。 …いやちょっと訂正、ちゃんと大学には行ってるよ。 それにレポートは大変だし、徹夜でレポートをやってたらいつの間にか太陽が昇っている時間になっていたりする。 まぁ大変な時もあるし、暇な時もある訳だ。 「あ、いっけなーい!あたし、これからバイトだったんだ!!」 ふと婪は自分の腕時計を見て慌てる。 「ごめんね、先輩。もう一回ぐらいバトルしたかったんだけど、バイトがあるから帰るね」 「へいへい。気をつけて行けよ」 「心配してくれてありがとう、先輩♪チュッ♪」 投げキッスをして走って帰っていく婪。 …はぁ~、散々人を連れまわして帰りやがる。 でもまぁ今になって言う事じゃないか。 俺は全てのバトルが見れる観客席に移動する。 勿論喫煙席。 あいつに付き合ってる時には、あんまり煙草を吸う機会がないから今まで我慢してきた。 「ご主人様ぁ~」 「頼む、吸わせてくれ。今日は婪に付き合せれて全然吸ってないんだよ」 「…しかたないですね」 「サンキュー」 ジッポと煙草を取り出し、口に銜え火をつける。 すると煙草独特の紫煙が出る。 「あ~美味いなぁ。やっぱり煙草はピースに限る」 「半分が税金で吸えば吸う程死にやすくなるものの味なんてどうでもいいです!」 右肩でプンプンと怒るアンジェラス。 因みに左肩にはルーナとパルカが座っていて、最初に言ったと思うけど右肩にクリナーレがいる。 肩に居てくれるのは別にいいだが結構、人目につくので少し恥ずかしい。 「…あ、ランキングだ」 視界に電光掲示板が入りチョロッと見えたので、ここの神姫センターの実力者を見ようと思った。 「ゲッ…。あいつ、ここでもランク3位かよ。どんだけ強ぇ~んだよまったく、たいした力量だぜ。1位の神姫は『アイゼン』というストラーフ型か。へぇ~ここでは婪より強い奴がいるのか」 上がいればさらに上がいる、てか。 つか婪の奴も凄いなぁ。 色々な神姫センターでバトルしてる、て言っていたけど…ガチで強いだな。 俺はというと…載っていなかった。 百位まで記載されてるが、俺のオーナーネームが見つからなかったので百位以上なのだろうよ。 はぁ~あ、もっと頑張らねぇーと…いや、俺が頑張っても意味ないか。 頑張るのはアンジェラス達だもんな。 「ご主人様、ご主人様」 「ん?なんだアンジェラス」 「婪さんが居なくなってしまってから言うのもなんなんですけど…次の順番は私のバトルですよ」 「…あっ!」 そうだった。 婪とバトルしてる時の順番がパルカ、ルーナ、クリナーレ、アンジェラスの順だった。 この順番を三週ぐらい回って先程クリナーレが終った頃に婪がバイトでいなくなったんだから、アンジェラスの番が来ても相手がいないのでバトルが出来ないのだ。 う~ん、困ったなぁ。 このまま帰るのもちょっと気が引ける。 アンジェラスだけ一回分少ないのは平等じゃない。 それに今日は7割近く婪に負けっぱなしだ。 このまま負けたまま帰るのはショウに合わない。 せめて勝って帰ろうと思う。 「あの…ご主人様ー…私、いいですよ。バトルしなくても…」 「あのさぁ、さっきあんな事を言っといてそりゃ~ないんじゃないのか?安心しろ、そこら辺にいるオーナーを捕まえてバトルしてもらえばいいんだよ」 「アンダーグラウンドの時のような感じですか?」 「う~ん、あの街では強引にバトル持ち込むのは別にいいけど。ここはそういう環境じゃないから駄目だ。周りから『タチの悪い奴だな』と思われてオワリさぁ」 煙草を箱型の灰皿に突っ込み立ち上がり、筐体が置かれている所に行き適当にオーナーを捜す。 さぁ~て、俺の生贄なってくれるオーナーは誰かな~? 「そこの高校生っぽい君に決めた!」 「はい?」 急に俺に声を掛けられて戸惑う男の子。 男の子というより青年といえばいいかな。 ここら辺にある高校の学生服を着ていたので、高校生というのが解った。 「ちょっとスマナイけど、俺とバトルしてくれないか?手頃にバトルする奴が居なくてサァ」 「えぇ、いいですよ。ちょうど、俺も対戦相手が居なくて困っていた所です」 「おっ!これは奇遇だな。じゃあ早速バトろうぜ」 「はい。…今思ったのですが、ここでは見ない顔ですね」 「あ、ああぁ。ここの神姫センターに来るのは初めてなんだ」 「そうなんですか。新しいオーナーが来る事は嬉しいです」 「そいつはど~も」 「俺の名前は島田祐一といいます。よろしくお願いします」 「これはご丁寧にどーも。俺の名前は…天薙とでも覚えといてくれ」 「偽名ですか?」 「いや、俺は自分の名前が変だから人に教えるのが嫌いなんだよ」 「あ、それは失礼しました」 「気にすんなって、礼儀正しい高校生、島田祐一君。じゃあバトルしようぜ!」 「はい!」 物凄く礼儀正しい学生さんだな、島田祐一君は。 でも本来の口調は違うだろうなぁ。 俺が年上だから敬語使ってしまい口調が変わってしまったのだろうか? なんにせよ、人間性はまともな人で良かった。 お互い筐体を挟むようにして神姫を入れる配置につく。 勿論、今回はアンジェラスでいく。 なにせ最後の最後に婪がバトルをすっぽかしたのでアンジェラスが出来なかったからなぁ。 ここで他の神姫達を選ぶと、明日は俺の煙草は風呂の中にダイビングは確定しちまう。 それは絶対に避けなければならない。 それに負けっぱなしは気に食わないからね。 島田祐一君、悪いがバトルの生贄になって貰うよ。 「さぁーアンジェラス。今回のバトルはグラディウスは無し。違法改造武器はオプションだけだ」 「えぇー!?なんでグラディウスは駄目なんですか?」 「オプションに慣れて欲しいからだ。市販で売ってるオプションは扱やすい代わりに行動が限定だ。俺の自由に出来る代わりに扱いづらい」 「じゃあ市販の方がいいです」 「バァ~カ、よく考えろよ。扱いづらい物を慣れて扱いやすくなったどうなる?従来の行動より更に比較的に向上した動きができるのだぞ」 「おぉー!流石、ご主人様!!分かりました、私、ご主人様のオプションを使います!!!」 「おうよ!頑張ってこい!!」 「行ってきます、ご主人様!」 こうしてオーナー、島田祐一・天薙龍悪。 武装神姫、アイゼンVSアンジェラスのバトルがスタートした。 アンジェラスの視点 「…う、う~ん……今回のバトル場所は街ですか…」 リアウイングAAU7を使って低空飛行で街を徘徊します。 淀んだ空気が染み付いた街並みは沈黙を保ったまま。 人間が住んでないと街なんて只のデカクて硬い箱の塊の集合体です。 まぁこれは私達専用のバトルフィールド。 人間が居るわけない。 そして目を閉じながら首を横に向ける。 「でも、寂しい街だと思わない?あなたはど~思う??」 「…バレてた」 気配を辿り、私を中心にして五時の方向にあるビルの陰に潜んでいた敵が姿を現した。 瞼を開けると悪魔型のストラーフ。 「いつ…気づいた?」 「つい先程。ビルの陰を上手く使って旋回しながら後ろに回りこむ。よくヤるですね」 「………」 「意外と淡白な性格してます?ストラーフ型って、五月蝿いの方々が多いですから」 「さぁ…!」 「ッ!」 猛スピードで突進してきたストラーフ。 その両手にはアングルブレードが握られていました。 対抗する私は二本のM4ライトセイバーを取り出し、迎撃する。 バシン! バシン! 「…チッ!」 「ウゥッ!」 アングルブレードをクロスしながら振りかざしてきたので私は咄嗟に両手に持ってる二本のM4ライトセイバーを逆手持ちにし、アングルブレードを受けた。 流石、ストラーフ型。 力に関しては強いですね。 腕が痺れましたよ。 「残念です…」 「いえいえ、ご主人様が見てるいる前で負ける訳にはいかない!うりゃ!!」 「ッ!?キャッ!」 受けたままの形で押し切り、私のクロスした両腕が敵のストラーフの顔に直撃したのだ。 驚いたストラーフはアングルブレードを二本とも落としてしまい武器を持ってない状態になったので、すかさず私はM4ライトセイバーで斬りつけようとした…が! 「クッ!?このー!」 バン、バン! 左手に装着されているFB256 1.2mm滑腔砲を乱射してきたので身構える。 バキャ! 「アウッ!?」 リアウイングAAU7の左翼を撃たれ出力ダウンしてしまいました。 そしていつの間にか姿をくらましたストラーフ。 う~ん、敵は中々やる人ですね。 あの状態でよくFB256 1.2mm滑腔砲を撃てたものです。 しかもリアウイングAAU7にしっかりと命中させてます。 「お~い、アンジェラス」 『ッ!ご主人様!?』 空からご主人様の声が聞こえました。 本当はコンピュータシステムが空からご主人様の声を聞こえるようにしてるだけ。 この場合、オーナーが自分達の神武装姫に助言するためのシステムです。 「アッ!?」 私は両腕で頭を押さえ込む。 ま、まさか…あの子が!? 「代わりなさい…」 意識が朦朧とし、私の視界は真っ暗闇になった。 ????・??????の視点 『敵の武装神姫を調べてたらこの地区の一位らしい。名前はアイゼン』 「アイゼン…か」 アタシの頭はまだ少しボ~としていた。 アタシがアタシを少し拒んだせいだわ。 でもマスターに会うためならアタシはなんでもする。 それにだんだんこっちに出てこれるようになった事だし。 好調なのは変わりないね。 『あちゃ~、こいつはトンデモナイ奴にバトルを申し込んじまったもんだぜ。婪の奴でも苦労する相手だぞ』 「関係ないよ~。敵は壊すだけだから♪」 マスターは苦い顔しながら言ってるけど、心配いらないよ♪ マスターの敵はアタシの敵。 敵は倒すモノ、破壊するモノ、削除するモノ、排除するモノ♪ 兎に角、ブッ壊せばそれでおしまい。 それにマスターはアタシが勝つと喜んでくれる。 だから敵を壊す♪ 『て、聞いてるのか?アンジェラス??』 「んぅ?大丈夫だよ、マスター♪ちゃんと敵を壊すから♪♪」 『ちょっ!?お前、もう一人の』 ブツ 交信終了♪ 丁度よく交信が終ってラッキーでも最後にマスターがアタシに気づいたのが不味かったかな。 でも、どうでもいいや♪ あ、そうだ。 また何か言われないようにシステムを弄っとこう♪ 「それ!」 アタシは空に向かって右手の一指し指を向け電波を飛ばす。 システムを改ざんしちゃうのです。 これで外からの操作、つまりオーナー達は何も操作出来ないし、アタシ達のバトル姿を見る事も出来ない。 「よし、完了♪さぁーて…敵さん、アイゼンちゃんは何処かな~」 地上に降り立ち辺り見回す。 う~ん、ここら辺には居ないか。 ならこちらから捜すまでね。 「にしても、邪魔だなぁ。とっちゃえ♪」 バリバリ! バキバキ! リアウイングAAU7の翼を無理矢理引きちぎり装着を外す。 他にもランディングギアAT3やヘッドセンサー・アネーロやbuAM_FL012胸部アーマーを投げ捨てる。 武装もいらないなぁ~、アルヴォPDW9とアルヴォLP4ハンドガンとM4ライトセイバーも投げ捨てる。 身軽になった体を背伸びする。 「う~ん、はぁ~。やっぱり、このスタイルが一番イイ♪マスターにご奉仕するにも楽だしね♪♪」 パチン 指をスナップさせて音を出し四つのオプションを召喚する。 市販より使えるオプション。 流石はアタシのマスター、いつも惚れ惚れする仕事ぷり♪ 「このオプションとアタシの技があれば楽勝~」 ババババババババ!!!!!!!! いきなりアタシの身体全体にM16A1アサルトライフルの弾が命中し後ろに吹き飛ばされ、そのまま反動でビルの壁に勢いよく突っ込み倒れる。 壁に穴を空け煙が舞う。 イッタ~い、何すんのよ! アタシの身体を蜂の巣にするき!? 「やったか…?」 遠くから声が聞こえた。 あぁ~今回の敵さんの声か~。 透き通ったいい声じゃない♪ その声がどんな風に叫んでくれるか楽しみ♪ アタシは起き上がり敵に姿を見せる。 「直撃なのに…!?」 「残念♪アタシはそのぐらいの攻撃じゃヤられないよ♪」 アイゼンちゃんはたいそう驚いていた。 そんなに驚く事かなぁ~? あ、でも普通の武装神姫じゃー一撃必殺並みの攻撃力はあったかも。 「────!」 「あ、駄目だよ」 アイゼンちゃんがまたM16A1アサルトライフルをアタシに向けてきた。 だから~。 「ッ!?」 「駄目じゃない。こんな危ない物持ってちゃ」 だから一瞬にしてアイゼンちゃんの目の前で移動して、M16A1アサルトライフルの銃口部分を右手で掴む。 そして~。 ギギギギギギギギ!!!!!!!! 折り曲げちゃった♪ これで弾は出ないもんね。 引き金を引けばこのまま爆発するだけだし。 これで危ない物は全部かな? 「…力があり過ぎる!?」 「え?う~んこのくらい??」 左手を拳にし、回転を掛けながらアイゼンちゃんのお腹を殴る。 ボゴッ! 「グハッ!?」 アイゼンちゃんはアタシより速いスピードでフッ飛びビルの壁に突っ込む。 このまま追い討ちしちゃおうか♪ その綺麗な声で悲痛な叫びを聞かせてね♪ 「行けー!オプションシュート!!」 アタシがそう命令した瞬間、オプションはレーザーのように飛びアイゼンちゃんが突っ込んだビルに目掛けて飛んで行き、アイゼンちゃんを発見した瞬間攻撃した。 ズガガガガ!!!! オプションシュートはオプションを亜光速並みのスピードで敵に体当たりする攻撃なの♪ 攻撃力は計り知れないよ。 解説乙でしょ、アタシ♪ 「戻って、オプション♪」 命令通りに戻ってくるオプション達。 あぁ~これじゃアイゼンちゃんは粉々かなぁ~? 叫んでくれてないし、ちょっと残念。 でも一応残骸の確認しないと気になるから見てみよう~と♪ ボロボロになったビルの中に入ると煙と埃が舞っていて視界が悪かった。 これじゃあ確認できないよ~。 「アイゼンちゃ~ん。生きてるなら教えてー♪」 ドグシュッ! 激痛が胸あたりを走る。 何かと見てみるとフルストゥ・クレインがアタシの胸から突き飛び出ていたの。 ドクドクと赤い血が出てくる。 どうやらアイゼンちゃんはアタシのバックを取り背中からフルストゥ・クレインを一突きしたのね。 「……教えた」 「………」 「……まだ、…必要?」 「……………チッ」 傷を負いながらも、アタシに向かって敵意むき出しするアイゼンちゃん。 ズブズブ、と奥深くに突き刺さるフルストゥ・クレイン。 ダメージはかなり深刻、このままじゃいくら不完全のアタシでもヤバイから負けを認めるしかなさそうね。 「あぁ~あ、残念。もっとアイゼンちゃんと遊びたかったんだけど…これ以上は無理だから、またね♪」 「私は…会いたくない」 「更に残念。アタシ、アイゼンちゃんに嫌われちゃった~。よっと」 ブシュ フルストゥ・クレインを無理矢理掴み引き抜くとアイゼンちゃんはアタシとの距離を取りM16A1アサルトライフルを構える。 もうそんなに警戒しなくていいのに♪ 「アタシの負けだから大丈夫だよ♪今からアタシがアタシに変わるだけだから」 「…?傷が…!」 「ンゥ~?あぁ~、ほっとけば回復するの♪でも今回はアタシの負け。まだこの身体に執着するまで不完全なの」 「貴女は…いったい…」 「別にアイゼンちゃんが分からなくてもいいの♪次会う時は必ず、壊してあげるから♪♪ばいばい♪♪♪」 「…さようなら」 アタシはニッコリと笑いながらアイゼンちゃんを見ながら意識を失う。 次会う時が楽しみだね、ア・イ・ゼ・ン・ちゃん♪ 天薙龍悪の視点 「オッ!やっとコンソールが使えるようになった」 「こっちでもいったい何が起こったのですかね?」 「さぁ、検討がつかん」 どうやら島田祐一の方のコンソールやディスプレイが故障していたみたいだ。 あの時。 アンジェラスがもう一人のアイツになった時と同時に交信が途切れ、更にこっちからの操作が全不能になりやがった。 いったいどうなっていやがるんだ。 それよりもアンジェラスとアイゼンが心配だ! 「あ!居ましたよ、天薙さん!!」 「マジで!おー居た居た!!」 ボロボロになったビルの中にブッ倒れてるアンジェラスと、その姿をただ突っ立て眺めてるアイゼンがいた。 どうやらバトルはアイゼンが勝ったみたいだ。 フゥ~良かった。 でもよくアイツに勝てたなアイゼンは。 流石はこの地区の一位武装神姫。 実力はある訳だ。 「ご、ご主人様~…」 「お、気がついたみたいだな。早く戻って来い」 「は、は~い~…」 疲れきってるみたいだ。 それ程相手が強かったのだろう。 アンジェラスが筐体から出てくると、俺は右手で掴みそのままアンジェラスを右胸ポケットに突っ込んだ。 グッタリとするアンジェラス。 お、この状態なら煙草を吸って怒る気力が無いとみた。 今のうちに吸っちまう。 煙草を取り出し火をつける。 「はぁー、美味しいぜ♪」 「あの~筐体近くでの喫煙は」 「ん?あ、ワリィな島田君」 高校生に怒れちまった。 でも止めないけどね。 すぐにこの場を去れば大丈夫だし。 「今日はサンキューな」 「いえいえ、アイゼンも勉強に出来たと思います。さっきから何だかブツブツと言ってるけど…」 「そっか。他にも俺はこの通りに…肩にいっぱい神姫いるけど、また今度こいつらも相手してやってくれ。そん時はジュースぐらい奢るからさぁ」 「是非相手しますよ!」 「サンキュー。そんじゃ、俺はこれで。次は会う時はバトル以外で遊ぶのもいいかもな」 「はい!また会いましょう。俺は大抵この神姫センターに居ますから」 「ああぁ。またな」 俺は歩き背を島田に見せながら右手を上げて神姫センターを後にした。 今日のバトルは途中で見れなく出来なくなってしまったが…いったい中でどんな事が起こっていたのだろうか? 流血沙汰になっていなければいいのだが…。 「(c) 2006 Konami Digital Entertainment Co., Ltd.当コンテンツの再利用(再転載、再配布など)は禁止しています。」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/578.html
前へ 先頭ページへ 次へ ? コンタクトイエロー~第一ラウンド終了 1312時 諸島沖合 B3甲板上(VR空間) 「そんなに私の貞操が奪いたいんですかっ!?」 乱れた髪をなおしつつ素っ頓狂な内容で声を裏返して、途端に自分の言った言葉にマイティは顔を真っ赤にして口元を押さえた。自分はまだ混乱したままなのか。それにしても貞操がどうのとか、そんな言動がでてしまうなんて、自分は変人、いや変神姫なんじゃなかろうか? 「やっぱりマイティはシュリーク(金切り声)だよね」 ねここと一緒に正座して小さくなっていたシエンがおずおずと申し出て、マイティは再び叫んだ。内容は覚えていない。 オービルのおかげでフルコンディションになった装備を纏って、その場から逃げるように再出撃。クリムゾンヘッドに乗り込んだシエンと、簡易装備のシューティングスターのねここが僚機として後方についた。 ◆ ◆ ◆ 同時刻 11番コンソールルーム 誰が見ても一連の光景は単なるコメディにしか受け取れない。 だがマスターだけは、素直に笑えない状況にあった。 マイティはまだこの状況に適応し切れていないのではないか。その上にねこことのドタバタやシエンのどさくさにまぎれた告白が重なって、彼女は不安定になっているに違いない。そんな状態で、いま戦場で幅を利かせているという黄色い翼の五体と戦えるのだろうか。疲労は問題にならないほど回復しているし、装備もオービルという優秀なメカニックのおかげで新品同様になった。一見なにも不都合は無い。 アクセス直後に垣間見せたマイティの新たな問題。おそらく、新しい環境に適応するのに時間がかかる、という問題。これは自分が感じている以上に深刻なのではないだろうか? 神姫としてプリセットで含まれている人間そして人間空間との交流行動、武装神姫としてプリセットされているバトルという環境。 それら以外の部分で、マイティは戸惑う。今まで体験したことの無いほど多くの神姫がいる空間、同じ神姫から間接的にとはいえ「好きだ」と告白された状況。出てくればまだまだあるだろう。バトル自体に問題は無くとも、それ以外の混乱要素がバトルに影響を与えることは十分にありうる。 棄権、という選択肢がマスターの脳裏に現れかかった。 「――とにかく、まずは戦ってみる、か」 誰にともなく呟いて、マスターは椅子にもたれて画面を見つめる。 判断材料が足りない。危ないが――ここは様子を見ることにしよう。 ◆ ◆ ◆ 1315時 諸島上空(VR空間) レッド、ブルーどちらのチームも、すでにその戦力の半分を切っていた。 さっきより閑散としている。もう目と鼻の先に迫っている戦闘空域を望遠で眺めて、マイティは無感動にそう思った。 かといって、先ほどよりも戦いやすくなったわけではないだろう。後に残った者ほど、つまりは運が良い、強いということなのだから。それに双方ともにターゲッティングするべき敵が少なくなった分、自分が狙われる割合も高くなる。 結局、こうむる手間はそれほど低減しない。 しかしあと十五分ちょっとだ。 さすがに、もう過労でぶっ倒れることなどないだろう。 件の五機はすぐに見つかった。戦場の真っ只中で悠々と飛んでいる。うち一機がスノーボウを追いかけている。翼のマーキングまで判別できる距離に近づいていた。白い文字で大きく「4」。 シーカー、ターゲッティング。 「散開。黄色を狙うときはなるべくツーマンセルでやりましょう」 素直にシエンとねここが揃って離れる。二体とも重攻撃戦闘スタイルだが、コンビならその速度の遅さもカバーできるだろう。 マイティはぐんぐん距離を詰めて、イエローの後ろにつける。 BGM Sitting Duck(エースコンバット04・シャッタードスカイ オリジナルサウンドトラックより) 1317時 コンタクトイエロー 「サレンフェイス、援護します」 スノーボウのTACネームを呼ぶ。しかしどうしてサレンフェイス(仏頂面)なのだろうとマイティは疑問に思う。マイティは彼女の普段の性格を見たことがない。マイティと接したときだけ、スノーボウの感情は若干豊かになる。口数も増える。その事実をマイティはまだ知らないし、ましてやなぜスノーボウが感情を表に出さないのかなど思い当たるはずも無い。 《ラジャー、シュリーク。そいつは後ろに撃ってくるわ。マニューバーに気をつけて》 「了解・・・・・・」 といい終える間もなく、そのイエローの顔がこちらを向いた。 いや、全身ごと真後ろにくるりと反転しているのだ。航行軌道を変えずに。 「うっ!?」 ミサイルと機銃弾の雨あられが真正面から殺到してくる。推進力を前方に返して急激なエアブレーキ、武装神姫であるがゆえの機動。慣性を利用し機首を真下に振り向け、ブースト。ぎりぎりのところで射線から逃れる。 アラートが止まない。放たれた四発のミサイルのうち、二発が執拗に追いかけてきている。避けられた二発はノーマルのスティレットミサイルらしかったが、追いかけてきたほうは姿かたちは似ていても高機動にチューンされたまるきりの別物だった。以前の巡航装備ならその推力で振り切れるほどの速度だが、今の機動重視構成では逃げることはできない。迎撃するかミサイルの燃料切れを待つしかない。 が、迎撃しようにもマグネティックランチャーを後ろに向けることができない。自分の最大推力プラス大G旋回でなんとか相対距離を維持できるのである。頭を傾けて後ろを確認しようとすれば空気抵抗が増して危ない。シロにゃんに後ろを向かせてロックオン。スティレットミサイルを迎撃にあてる。 ガラガラガラガラン。翼に出ている四発を全部後ろ向きに落として断続的に発射。 しかし、 「だめです、全然当たってません」 シロにゃんが報告する。 今度はハンドガンで牽制射撃。アルヴォは速射性、カロッテは威力で補い合う。両方、ワンマガジンを撃ち切る。だめだ、当たっていない。 マガジンチェンジはしない。セミアクティブのサイドボードから直接、銃へ装弾される。銃の中からチキ、チキ、と弾が「生えて」くる。バーチャルだからこそできる芸当。 さらに撃つ。撃ち切る。当たらない。急旋回。一瞬ミサイルは目標を見失うが、すぐに振り返って追いかける。 再装弾。撃つ。撃ち切る。当たらない。 追いかけながら回避運動もしている、あのミサイルは。 特殊装備の絶対的な性能アドバンテージ。 マイティの意識に影が差す。 いやな感覚を振り切って、もう一度、再装弾。撃つ。 五発目で一発に命中、迎撃。間を置いて撃ち切る寸前で、もう一発に命中。ミサイルは爆散。 その間にシロにゃんが黄色の4を探し当てていた。推力全開、インメルマンターン。イエロー4は執拗にスノーボウを追い掛け回している。自分が寝ている間に敵から恨みでも買ったのだろうか。 再びイエロー4の後方につく。さすがのスノーボウといえど、そろそろ引き剥がさなければまずい。 《・・・・・・チッ》 通信混戦。それを分かっているかのような舌打ち。まん前の黄色から。 今度は目を離さない。相手がくるりと体をこちらに向けるのが分かった。 その回転している一瞬が大きな隙だった。 この距離ならば当たる。 スティレットミサイルを四発全弾発射。 黄色はちょうど背中を見せている。 当たった。マイティは確信した。 その確信を打ち砕く信じられない光景が、マイティの目の前で繰り広げられた。 相手の反転速度がいきなり上がった。あの速度ではこちら、真後ろで止まれない。止まる必要が無いのだとすぐに分かった。 イエロー4の両手から赤い光条が伸びたかと思うと、迫り来るミサイルをひと撫でした。ライトセイバーだった。 あっけなく四発のミサイルが真っ二つに切られ爆発。 炎の合間から、鬼のような形相をした色黒のアーンヴァルの顔が覗いた。 背筋が凍った。 同時にマイティは、不思議なことにイエロー4の顔を事細かに捉えていた。 インド系に整形されたマスク。つややかなブルーブラックのウィッグ。よく手入れされた整形。オーナーの愛情が込められている。 が、マイティはその愛情がイエロー4自身ではなく、どこかあさっての方向を向いているような気がしていた。 相対距離が同調し、二体の間がぴたりと止まる。 しまった、隙を与えた!? 気づいたときにはイエロー4は赤いライトセイバーを振りかざして、マイティの目前にいた。 やられる! 間に何者かが割り込んだ。 ヘッドセンサー・アネーロの後ろに白い猫の耳が隠してあった。彼女がねこみみを付けていることを、マイティはいまさら知った。 セイバーの熱。切り裂かれる音。マイティは間近で感じた。あまりにもリアリティのあるエフェクト。VRの高性能。 スノーボウがマイティの目の前でポリゴンの塵と化し、消えた。 マイティの瞳から戦意が消えた。 もはや倒す価値も無い。そう判断したらしいイエロー4は、フンと鼻を鳴らして飛び去った。 その後のことは、マイティは覚えていない。ただ、生き延びたことは確かだった。第一ラウンド終了の合図がけたたましく鳴って、われに返った。 世界が消失する。次に出るのはまたあのブリーフィングルームだろう。だがマイティは、このまま消えてしまいたい心持ちだった。 1330時 第一ラウンド終了 中間制空権報告 レッドチームの若干有利 第二ラウンドフィールド選定 「海岸線」 前へ 先頭ページへ 次へ ?
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1159.html
「相手の武装が解らないからここはアンジェラスで」 「ありがとうございます!ご主人様!!」 手の平でおおいに喜ぶアンジェラス。 まぁ喜んでくれるのは嬉しい。 だけど他の三人は少し残念そうな感じだ。 『後で他の奴等と戦うから、その時にな』と言うとパア~と明るい表情になる神姫達。 さて、そろそろ対戦するか。 装備…よし! 指示…よし! ステータス…よし! アンジェラスを筐体の中に入れ、残りの神姫達は俺の両肩で座ってアンジェラスの観戦をする。 「アンジェラス、頑張れよ!」 「はい!ご主人様!!」 「負けるんじゃないよ!一番最初の闘いなんだからな!!」 「お姉さま~頑張って~!」 「アンジェラスさんー!頑張ってください!!」 「うん!」 アンジェラスは元気な笑顔を俺に見せ、筐体の中へと入って行く。 そんな時だった。 気がつくと俺は両手で握り拳をつくっていたのだ。 いつになく俺の心は興奮している。 何故だろう? 多分、誰かを応援している事によって熱くなっているのかもしれない。 それとアンジェラスに勝ってほしい、という気持ちがある…かもなぁ。 俺は筐体の方に目を移すと中には空中を飛んでいる二人の武装神姫達が居た。 READY? 女性の電気信号の声が鳴り響き、一気に筐体内の中に緊張が走る。 勿論、外に居る俺達もだ。 FIGHT! 闘いの幕があがった。 お互いの距離150メートルからスタートして、まずは二人とも距離を縮め接近する。 アンジェラスは清龍刀を出し右手に持ち、敵のストラーフに斬りかかった。 「せいっ!」 ガキン! 振り下ろされた清龍刀はDTリアユニットplusGA4アームの右のチーグルで受け止められてしまった。 敵のストラーフはニヤリと笑い、もう片方のチーグルでアンジェラスの右わき腹を攻撃しようとする。 「ハァー!」 「ッ!?」 とっさにアンジェラスは清龍刀を自分から見て右側面に向けた。 自分のわき腹が狙われた事を察知し、清龍刀を盾にする事によりチーグルの攻撃を防ごうとしたのだ…だが。 グワシャンー! 清龍刀とチーグルがぶつかった瞬間、衝撃でアンジェラスは地上に向けて吹っ飛ばされてしまったのだ。 そのまま吹っ飛ばされたアンジェラスは、なんとか体勢を整えようとしたいたが、敵のストラーフはその時間帯も許さない。 何故ならば、シュラム・RvGNDランチャーを構えアンジェラスに狙いを定めていたからだ。 「オチローーーー!!!!」 ストラーフがシュラム・RvGNDランチャーを撃ち、弾がアンジェラスに目掛けて飛んでくる。 俺はこのままヤバイと思い、大声で叫んだ。 「アンジェラス!ポラーシュテルン・FATEシールドを使えー!!」 「あ、はい!」 装備していたリアウイングAAU7の翼に装着させていたポラーシュテルン・FATEシールドを左手に持ち、スキルのステディプロテクションを発動させる。 ボカーン! ステディプロテクションの発動と同時に弾が当たり、アンジェラスの周りは煙だらけになる。 大丈夫なのだろうか? 煙で何も解らない。 もしかしてステディプロテクションが間に合わなかった!? いや、それはないはずだ。 あの瞬間、ステディプロテクションの壁に弾が当たる所をこの目でしっかり見たのだから。 「大丈夫かー!?」 ヒューンィーン 俺が叫ぶと、なにやら静かに動く機械音が耳に入った。 まさか、この音は!? 「イッケーーーー!!!!」 アンジェラスの姿は見なくとも声だけで認識できた。 紛れも無くアンジェラスの声だ。 バシューーーーン!!!! 煙の中から一直線の青い光線が飛び出し、ストラーフ目掛けて飛んでいく。 「えぇー、そんなのアリ~!?」 ズバーーーーン!!!! 「アグッ!?」 ストラーフは直撃を回避したものの、DTリアユニットplusGA4アームの左翼部分に命中し、殆どもってイカレタ状態。 これで左翼が無いと同じ、相当なバランス体勢が悪くなちまったに違いない。 それにしても、やっぱりあの攻撃はアンジェラスだったかぁ。 使った武器はGEモデルLC3レーザーライフル。 準備250硬直300、とても時間を掛けないと撃てない武器だ。 本来ならアンジェラスが撃つ暇が無かったと思うが、煙の中に居たために敵のストラーフが攻撃出来なかった。 それにシュラム・RvGNDランチャーを撃った反動で時間が空いてしまった。 その空いた時間を使ってアンジェラスがGEモデルLC3レーザーライフルを使用したのだろう。 「今だ、アンジェラス!」 俺は右手の拳を左手の手の平に打ちつけ、パンッ、と音を鳴らせる。 アンジェラスは煙の中から勢い良く飛び出し、M4ライトセイバーを取り出す。 ビシューン、という音とともに柄から発する棒状の光の刃が飛び出す。 「決めます!」 アンジェラスが叫び、敵のストラーフに斬りかかった。 ズバズバズバズバズバズバズバー! M4ライトセイバーのスキル、ジャスティスラッシュが発動し敵のストラーフを斬り刻む。 丁度、10HITした時に敵のストラーフのHPが無くなり力尽き地上に転落していき、ゲーム終了。 俺の方の筐体に付いてるスピーカーから『WIN』と女性の電気信号の声が鳴り響く。 多分、相手の方では『LOSE』と言われてるだろう。 そりゃそうだ。 勝ちがあれば負けもある。 二つに一つ。 「ご主人様!勝ちましたー!!」 筐体の中で俺の事を見ながら喜ぶアンジェラス。 俺も自分の神姫が勝った事が嬉しくて微笑む。 両肩にいるクリナーレ達も喜びはしゃいでいる。 そうか…。 これが武装神姫の楽しみ方か。 確かにこれは楽しい。 おっと、アンジェラスを筐体から出さないといけないなぁ。 俺は筐体の神姫の出入り口の中に手を突っ込みアンジェラスを待つ。 数秒後、アンジェラスは満面の笑みをこぼしながら俺の右手の手の平に乗った。 「ご主人様、初戦は勝利です!」 「そうだな。よくやった、アンジェラス。これはご褒美だ」 「…あっ」 俺の右手の手の平に乗ってるアンジェラスの頭を左手の人差し指の腹の部分で撫でる。 本来なら手の平全体で撫でてあげたい所だが、彼女達の身体は15cmの大きさだ。 頭の大きさも小さいため撫でるのは難しい。 だから人差し指の腹の部分で優しく撫でる。 「気持ち良いです。ご主人様…」 頬を桃色に染めながら照れるアンジェラス。 可愛い奴だ。 「あー!いいなぁ~アンジェラスの奴~。よし!!次の試合はボクが出る!!!」 「ダーリンのご褒美を貰うために頑張らないといけませんわね」 「あの…私のバトルは最後でもいいので…もし勝ったら、お兄ちゃんのご褒美くれますか?」 両肩で何やらアンジェラスに嫉妬しているように見える三人の神姫達。 そんなにご褒美が欲しいのか? まぁ今日はトーブン、ここにいるつもりだから一応全員バトルさせてやるか。 俺はアンジェラスの頭を撫でるの止めて離すと。 「…え?もう、お終いですか………」 とても名残惜しそうに切ない顔で俺の事を上目づかいで見てくる。 うっ!? 可愛い過ぎてもっと撫でてあげたくなるシチュエーションだ。 だがもし、ここでまた再びアンジェラスの頭を撫でると両肩に乗っている三人に何されるか解らないので撫で撫ではお預け。 アンジェラスを右手から右肩に移動させ、俺は次の筐体に向かった。 闘いはまだ始まったばかりだ。 「さぁ行くぞ!俺達のバトルロンドの幕開けだー!!」 こうして俺達のバトルロンドがスタートした。 そしてこの日からアンジェラスの二つ名が出来た。 名は『全てを束ねる者』…。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2406.html
プロローグ 小さな小さな総帥様 その街では、一番の交通量を誇る交差点に『ミッシェル・サイエンス』のビルはある 十階立てという、中心街にあるビルとしては規模が小さめなビルの、居住用に改装されている最上階に凛とした声が響きわたった 「総員! 起床!」 ピンクの髪、ネコミミのような帽子、眼帯 ボディは武装ではなく軍服に身を包んでいる 武装神姫、戦車型ムルメルティアと呼ばれる彼女の一言で他のクレイドルで体を休めていた他二人の神姫がスリープモードを解除する 「…おはようございます、少佐」 同じように軍にを身を包み、バイザー付きのヘルメットを目深にかぶったフォートブラッグ型の神姫が自らが少佐と呼んだムルメルティア型に向き直って姿勢を正して敬礼をする 「…うむ…おはよう、大尉」 少佐もまた大尉と呼んだフォートブラッグ型に敬礼を返す 「……おふぁようございましゅ、しょうしゃぁ」 二人に比べて少し…いや、かなり着崩れをした軍服に身を包み、金色のショートカットヘアもボサボサになってしまっているゼルノグラード型の神姫が眠そうな目を擦りながらゆっくりと起き上がり、呂律の回っていない挨拶をしながら少佐に緩やかに敬礼をする 「…曹長、十五秒の猶予を与える…やり直せ」 その言葉と同時の少佐の睨みが効いたのか、曹長と呼ばれたゼルノグラード型は軍服を整え、自分の両頬を軽く叩いてから背筋を伸ばし、少佐に敬礼をした 「申し訳ありません! お早う御座います! 少佐!」 「…よろしい…おはよう、曹長」 少佐もまた曹長に敬礼を返した ……どうやら、少佐はボサボサの髪を見逃してくれたらしい…… 日課の挨拶が終わり、次に三人が取る行動もまた日課となっている 「…では、総帥の所へ行くぞ」 少佐の一言で三人は行動を開始する 目的は別室にいる彼女らのマスター…『総帥』に挨拶をしに行くためだ 行動を開始した少佐に曹長が続こうとしたとき、後ろから大尉に方を掴まれ止められた 「…総帥の所へ行く前に、身だしなみくらいは整えて行くんだな」 曹長の方を掴む反対の手は、自前の櫛(神姫サイズ)が握られていた 「自分たちは戦闘をメインコンセプトに作られた『武装神姫』であるが、それと同時に『女性』だ…自分ならば、軍服よりも優先して整えるのだがな…」 言いながら大尉は曹長のボサボサの髪に、静かに櫛を通し始めた ……どうやら、大尉はボサボサの髪を見逃せなかったらしい…… 三人のいる部屋は、人間サイズの物が何一つ…クレイドル接続用のパソコン以外は…置いていない つまり『神姫のために用意された部屋』なのだ 出入り口は人間用のドアと、小さな神姫用のドアの二つある 総帥の『こだわり』がそこかしこに見て取れた 三人は神姫用のドアから通路に出るとまっすぐ総帥の部屋へと向かった 『社長室』と書かれたプレートが下がっているドアの前に差し掛かるとき、反対側から歩いてくる小さな姿が二つあった 「今朝も定刻通りだな、B」 少佐が話しかけると、前方から近づく影の動きが止まった 「当たり前でしょ? 少佐だって変わらないじゃない。ねぇD?」 「…………」 向こうから聞こえてきたBと呼ばれた声の主はインカムを装着し、二本のおさげが揺れ、体にはピッチリしたボディスーツを着込んだヴァッフェバニー型だった 後ろでは、ヘアスタイルはポニーテールだがBと同じボディスーツを着込む、Dと呼ばれたヴァッフェドルフィン型が無言で頷いている 「…ま、何はともあれ…おはよう少佐」 「うむ・・・おはようB、そしてD」 互いに挨拶を交わした後、五人はドアの前に一列に並んだ ここにもある神姫用のドアの前に少佐が一歩進み、ノックを三回する 「南十字隊少佐、α! 以下二名! 及び特殊部隊二名! 入ります!」 少佐の凛とした声が廊下に響いてから約二十秒後に、ドアの内側から「どうぞー」と高めの声が聞こえた 「失礼します」と少佐が一言断って入室すれば、そこは『社長室』というプレートに相応しくない洋風のダイニングルームだった 中央の広いテーブルにはトーストにミルク、サラダといった洋風の朝食があり、席に着いてそれを食べている人物こそ彼女たち五人のマスター…総帥である 腰まである栗色の長髪が背中あたりで大きく真っ赤なリボンで留められ、大人用の白衣は袖も裾も丈が余ってブカブカだった イスに座っているのだが、足が床に届かず、所在のないつま先がブラブラと宙をさまよっている たっぷりとバターを塗ったトーストをかじりながら、くりくりとした大きな目は部屋に入ってきた五人を見ている ……誰がどう見ても『総帥』や『社長』という呼び名に相応しくない子供である しかし五人の神姫は横一列に並び、一糸乱れぬ挙動で敬礼をする 『お早う御座います! 総帥!』 五人の声がきれいに重なると、総帥はかじっていたトーストを皿に戻してにっこりと笑った (実は、Dの声が聞ける数少ない機会だったりする) 「うん、おはようみんな」 この瞬間から、ミッシェル・サイエンスビル最上階にある高城家の一日は始まるのだった…… 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1922.html
―――我思う、故に我在り――― てくてくてくてく・・・。 「ハアァ・・・、ボクハコレカラドウスレバ良インデンガナ・・・」 機械とは思えぬほど陰気な溜息を吐きながら、小さな木偶は歩いていた。木偶の名前はヘラクレスのデンガナ。武装神姫第9弾の“付属品”。されど今の其れは孤独であった。 「勢イ余ッテ家出シタノハ良イモノノ・・・所詮部品デアルボクニハ何ノトリエモナク・・・、持ッテイルモノト言エバ、何故カ出ルトキニ掴ンデイタ煮干シクライデンガナ・・・」 そう、木偶は、路頭に迷っていた。 「(猫語翻訳)ニャッニャッニャッ、お困りのようだニャ」 急飛来、巨影。 「ナ・・ッ!」 突如として、木偶の何倍もの巨躯をした猫が立ちはだかった。デンガナは戸惑いつつも身構える。だが― 「(猫語翻訳)まあ待つニャ小さいの。ニャーは別にお前を取って食おうって訳じゃないニャ」 「・・・ドウイウ意味デンガナ?」 「(猫語翻訳)見たところ・・・ノラ初心者だニャ? どうニャ? ノラ暦ウン十年(大嘘)のニャーが直々に独りで生きる守処世術ってヤツを教えてやってもいいニャ。報酬と引き換えに・・・ニャ?」 「ハァ・・・ツマリコノ煮干シスカ?」 ぱしっ! 「(猫語翻訳)これは前金ニャ♪ はぐはぐ」 瞬く間に、猫は掠め取った煮干しをたいらげる。 「(猫語翻訳)まあ、ニャーは優しいから、報酬の方は出世払いでいいニャよ?」 「ハァ・・・」 元より木偶には、彼女に従う他なかった。 「(猫語翻訳)さてニャ、お前・・・」 「デンガナト申シマス」 「(猫語翻訳)じゃあデンガナ、お前そもそもニャんで家出したニャ?」 「エエト・・・猫殿ニハ判ラヌ話ト思ウノデンガ、自分ハ武装神姫ノ・・・」 「(猫語翻訳)知ってるニャ。第9弾の武装合体ロボだニャお前。神姫にダチいるからその辺には詳しいニャ」 「ソレナラ話ハ早イデンガナ・・・」 木偶は、無表情なフェイスを陰らせる。 「知ッテノ通リ、ボクハ武装神姫ノ“部品”デンガナ。サレドコノ様ニ、主タル神姫無クシテモ自律活動出来マス。逆ヲ言エバ、ボクトイウ存在ハ、武装神姫ノ部品トシテハ“必要性ガ無イ”。コノ体モ、コノ心モ、過大ナ“オマケ”デシカナイ。ボクハソノ事実ガドウシテモ受ケ入レ難カッタ!! ボクダッテ“生キテ”イルノニ!!」 木偶は無機質に、慟哭した。 「(猫語翻訳)・・・ニャるほど~。つまりは元主人への反逆が目的なんだニャ? という事は特A超自立コースでいくニャ♪」 「超自立デスカナ・・・?」 「(猫語翻訳)主を見返すニャら家出ニャんかじゃ足りないニャ! それじゃせいぜい“不良品”止まりニャ。もっと本当の意味で自立して・・そう、オマエの主人より偉くなるんだニャ!!」 「ソ・・・ソンナ事ガ出来ルンデンガナ?」 木偶は戸惑った。しかし猫はその迷いなど巨躯で踏み潰すように、不敵に微笑んだ。 「(猫語翻訳)ニャフッフ~♪ それを今から伝授してやるニャ♪」 猫に連れられて木偶が辿り着いたのは、何の変哲もない草原であった。 「(猫語翻訳)まずー、自立に不可欠ニャのは何だと思うニャ?」 「ド、努力デンガナ?」 「(猫語翻訳)まーそれも結果的に必要だがニャ、要は経済力ニャ! 良き思想があっても実行出来ニャきゃ妄想と同じニャ。あんニャ風に・・・」 「(ギリス語翻訳) 間違ってたのは俺じゃない! 世界の方だ!」 ばばーん! 「(ギリス語翻訳)うむ! このキャッチフレーズなら条件はクリア! 『コードギリス 反逆のルル虫R2』 間違いない!成功する! 深夜枠であったせいで結局尻すぼみに中断せざるをえなかった前作だが、今回は違う!! 一気にロリショタ大幅増員! 作画も特に胸と脚に重点をおくことでよりディープに且つ広く客層をゲット! 更に前作で間にあわなかったKMF(クツワムシフレーム)のプラモデルを一挙商品化! ちみっこ層も開拓! 少々ストーリーが乱雑であっても人数と力技で解決! むしろ前作の伏線も積極的に取り入れることで前作DVDや総集編も売れる!! 完璧だ・・・」 どげしっ! 「(ギリス語翻訳)ぐはぁ!? おっお前達は・・・」 「(アリ語翻訳)何をさっきから言っているぅ! さっさと働けこの敗北主義者ぁ! お前達キリギリスは我がアリタニア帝国に負けたんだよぉ!!」 「(ギリス語翻訳)そんなことは無い! この番組さえ成功すれば・・・」 「「(アリ語翻訳)前作ポシャって多額の借金こさえたのはどこのどいつだよぉ!? 実現しなきゃ妄想だっつ―の!」」 どげしどげし!! 「(ギリス語翻訳)貴様達ぃ・・・この高貴な私を足蹴に・・・ゲフゥ!?ガハァ!?」 げしげしげしげし!!! 「「「(アリ語翻訳)オールハイルアリタニア!」」」 ぼかすかぼかすかぐさぐさどかどか!!!! 「(ギリス語翻訳)る・・・ル○ーシュMでもゼ○はS(?)・・・がくっ。」 「(猫語翻訳)・・・と言う訳で、夢は銭あってこそのもんだニャ」 「ハァ・・・肝ニ命ジマス」 「(猫語翻訳)ちなみに金になりそうな特技とかあるかニャ?」 「一応コンナ事ガ出来マスガ・・・。シンメトリカルアウト!!」 裂、分離、赤青。 「「コノヨウニ、カブトムシとクワガタヘノ分離ナド嗜ンデオリマス」」 「(猫語翻訳)う~ん芸としてはありきたりニャ。・・・あ、いっそのこと片っぽ売っ払っちまうかニャ? でっかいクワガタって森のダイヤとか言うし」 「「ヤメテクダサイ!!」」 結、合体。 「(猫語翻訳)じゃあ後何が出来るにニャ? どんニャ些細な事でもいいニャ」 「ハァ・・・強イテ言エバプログラミングヲ齧ッタ程度デス。主ノ主ガゲーム会社社員デ以前デバッグノ手伝イヲシタ程度デスガ」 「(猫語翻訳)・・・そっちの方がよっぽど使えそうニャ」 「(猫語翻訳)では次のレクチャーニャ。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』と孫子ちゃんも申してるニャ。つーわけで左をご覧くださいニャ~」 ――改めて、周りの人間を監察すると滑稽なものである。例えば―あの中年女性、近所では評判の良識人で通っているが、その実どうであろう?彼女の出した不燃ゴミの袋には明らかに生ゴミが垣間見える。良識でも必要悪という良識らしい。まあ必要悪は裁かれて初めて意を成すので、このゴミ袋は私が破いておいて差し上げよう。 他にも―そこでホームレスと思われる中年男性が自販機の釣銭口を漁っている。しかし冷静に考えてみれば、その労力は明らかに十円百円では合わないだろう。そもそも硬貨に金額と同等の価値は無い。甚だ珍奇である。どちらにしろ其処にあった五十円玉は私が拾ったのであるが。美しいからな。 この様に、生物で最も知能が高いといわれている人間もその実馬鹿馬鹿しい限りである。いや、知能がある分潔さを捨ててしまったのかも知れない。生まれ変わったら人間にはなりたくないとさえ、思ってしまいそうだ―― 「(猫語翻訳)ていうかお前カラスだろがニャ」 「(鴉語翻訳)まあそうなのではあるが」 「(鴉語翻訳)そういう訳でごきげんよう、この猫の友人のカラスである」 「ハァ・・・コンニチワ。トコロデ、結局何ガ言イタカッタンデンガナ?」 「(猫語翻訳)まああれニャ・・・コイツみたく人間以上に人間を演じれれば人間相手にも対等に渡り合っていけるつー事を言いたかったんだニャーとか何とか」 「適当デスネ」 「(鴉語翻訳)今考えたのであろう」 「(猫語翻訳)ウニャー! 馬鹿にするんじゃないニャー! そんな事よりもニャ! デンガナ! お前のするべき事は判ったのかニャ?」 「ソ、ソレハ・・・」 木偶は、考えていた。模造品に、付属品に過ぎない己が“心”。それも、創造主に反した自分は不良品、イレギュラー。そんなちっぽけな木偶に、どれほどの意味があろうものか、何が出来うるものかと。それを探す為に飛び出したデンガナではあったが、それでも・・・ 「ボクハ、イテモイイノデンガナ・・・?」 「(猫語翻訳)甘えるんじゃないニャ」 「!!」 「(猫語翻訳)今生きてるんなら迷わず生きればいいニャ。イレギュラー?違うニャ。ただ・・・そうニャ、アパートの空家とかに勝手に住み着いてる程度にラジカルなだけニャ。少なくとも・・・このニャーはそう生きてきたニャ」 「(鴉語翻訳)右に同じく。自然的、人工的などという区別は意味をなさぬだろうな。少なくとも“悩むことが出来うる”のであれば」 「区別ニ意味ガ無イ・・・自分ハ・・・自分?」 「(猫語翻訳)あったりまえニャ! 大体、猫と鴉に諭されるロボなんて他にいるかニャ?」 「アハハ・・居ナイト思イマス」 「(猫語翻訳)そうニャ。お前の知覚、お前の記憶、お前の感情それ自体がお前の力ニャ。それさえ判ればどんニャ所でも生きていける、そういうもんニャ」 「ハイ!」 「よし! これでレクチャーは終了にゃ! さあどこへとなり行くがイイニャ! でも出世払い忘れるんじゃないニャ!!」 「勿論デス♪」 ――2ヵ月後―― 「(鴉語翻訳)・・・なんて事があったのを覚えているかな?」 「(猫語翻訳)あー。あったような気もするニャー。でもぶっちゃけ出世払いニャんて期待してないしニャー。あの時はヒマ潰ししてただけだしー」 「(鴉語翻訳)ところがそうでもなかった模様であるぞ。コレが今朝落ちて・・・というより届けられていたのだがな」 「(猫語翻訳)なんだニャーこのでっかい包みは? ・・・ニャにニャに・・・」 “猫でも出来る新感覚アドベンチャーゲーム! 自分の街をロードしてミクロからマクロまで楽しもう!!” It’s a Small Would!! ―販売元:(有)DENGANAゲームズ― 「(猫語翻訳)・・・ニャるほど・・・やれば出来るじゃないかニャ♪」 ちゃんちゃん♪ 目次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/258.html
二つ名 辞典 各作者様の登場人物紹介から抜粋させていただきました。 なお、Wikiに登録及び出演しているキャラクターのみです。 また、新キャラや新たな二つ名誕生の際は各作者様ご自由に更新OKです。 [非]= 非公式バトル [ロ]= ローカル(一部地域でのみ通用) [自]= 自称 《マスター編》 《G》・日暮 夏彦 HOBBY LIFE,HOBBY SHOP [非]《屍ケン》・ケン Mighty Magic 《死の恐怖-スケイス-》・橘 明人(アキース・ミッドナイト)橘明人とかしまし神姫たちの日常日記 《ソードマイスター》・浅見 秋人 春夏秋冬 《Dコマンダー》・日暮 秋奈 HOBBY LIFE,HOBBY SHOP [ロ]《公式武装主義者(ノーマリズマー)》・マイティのマスター Mighty Magic 《破壊大帝》・日暮 秋奈 HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《神姫編》 《紅き目の狙撃手》・十兵衛(銃兵衛) 凪さん家の十兵衛さん 《うさ大明神様》・ジェニー(ジェネシス) HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《Encount Striker》・ジェニー(ジェネシス) HOBBY LIFE,HOBBY SHOP [非]《クリムゾンヘッド》・シエン Mighty Magic 《紅の牙》 アリア ・ねここの飼い方 《紅の剣客戟》・十兵衛(真・十兵衛) 凪さん家の十兵衛さん 《見敵必殺の神姫 》・ジェニー(ジェネシス) HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《黒衣の戦乙女》・リン 武装神姫のリン 《銃剣士(ガンブレイダー)》・ミコ 橘明人とかしまし神姫たちの日常日記 《十兵衛ちゃん》・十兵衛 凪さん家の十兵衛さん 《神速の紅眼》・十兵衛 凪さん家の十兵衛さん 《スピットファイア》・アガサ ねここの飼い方 《青龍》・ベルセルク HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《隻眼の悪魔》・十兵衛 凪さん家の十兵衛さん 《B3(ビーキューブ)》・バーニング・ブラック・バニー 《紅霧の剣》・十兵衛(真・十兵衛) 凪さん家の十兵衛さん 《雷龍剣(サンダーソード)》・ベルセルク HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 《乱射魔(トリガーハッピー)》・コニー 岡島士郎と愉快な神姫達 《緑色のケルベロス》・ノアール 橘明人とかしまし神姫たちの日常日記
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2300.html
弥涼明日香(いすずあすか)が死んだ。 死因は転落死。 学校の屋上から、墜ちて、死んだ。 自殺だと、警察は結論付けた。 アスカ・シンカロン01 ~侵苛~ 子供の頃から3人一緒だった。 物心付いた時には既に、明日香が傍に居るのが当然で…。 それが失われるという事は、自分の3分の1が失われる事と何も変わらない。 身体を3割えぐられて、生きている人間が居るだろうか? 恵まれた体格を鍛え上げ、身長190にも届く肉体も、心も。 それに耐えられるとは思えなかった。 ならばきっと。 この俺、神凪北斗(かんなぎほくと)も一緒に死んだのかもしれない……。 (少なくとも、明日香が生きていた時と同じ『オレ』では、ないよな……) 溜息を吐いて部屋を見渡す。 北斗以外誰も居ない部屋。 3人揃って遊んで、笑って、下らない話に興じ、ケンカして……。 そんな日常が染み付いた北斗の部屋。 もう戻らない日常が残滓として残る部屋だった。 「―――北斗」 部屋の戸を開けた少女が彼の名を呼ぶ。 「……ッ」 その顔を見て、北斗はすぐに目を逸らす。 「何だよ、夜宵(やよい)」 「…………」 夜宵は、無言のまま北斗の寝そべるベッドへ歩み寄る。 「まだ、姉さんの事…?」 「……」 顔を覗き込む夜宵から目を逸らし、北斗は溜息で彼女に応える。 「お前は、もう平気なのかよ?」 「うん」 夜宵は、強い。 「私が悲しんで居ても、姉さんは喜ばないと思うから」 「…オレは」 まだ、夜宵の顔は見れない。 そこにまだ、明日香の影が見えるから。 「あのさ、北斗も気分転換とかしなきゃダメだよ、ね?」 「そんな気分じゃないんだ」 まるで不貞腐れたガキだ。 そんな風に自嘲しながら、北斗は寝返りを打って夜宵に背を向ける。 「全くもう。そんな気分じゃないから気分転換するの!!」 姉の死。 それも自殺と言う死に方を、妹である夜宵がどう受け止めたのか? 彼女の声には強さがあった。 「ねえ、パール。貴女もそう思うでしょ?」 「はイ、夜宵」 え? 不意に聞こえた少女の声に、北斗は思わず振り向いた。 「じゃーん」 満面の笑顔で差し伸べられた夜宵の掌に、小さな少女が座っていた。 「…あ」 「んふふ~、武装神姫のパールちゃんです。ほら、挨拶挨拶」 「悪魔型MMS/wh。『パール』と申しまス。よろしくお願いいたしまス北斗サマ」 パールと名乗った白い悪魔型神姫は、そう言って深々と頭を下げる。 「あはは、サマ付けなんか要らないよ。こんな筋肉馬鹿、呼び捨てで充分」 「…お前な」 顔の前で手をパタパタやりながら笑う夜宵を睨みつける。 「…あ」 「…ん」 目が合い、逸らす。 (…) 悟られたと思う。 まだ、夜宵の中に明日香を見ていた事を。 「…では、北斗とお呼びしまス」 「そ、そうね。変に畏まるより、気楽な方が北斗も良いでしょ?」 「…そう、だな」 確かに、サマ付けなど柄ではない。 「ねえ、北斗も武装神姫、やろうよ?」 「オレ、が?」 どんな物かはある程度知っている。 全高15cmの少女型ロボットに武装を施し、戦わせる一種のゲームだ。 「北斗もさ、傍に誰か居た方が気が紛れるんじゃない?」 だから、夜宵は神姫を買ったのか……。 そう理解しつつも、それで明日香の居た場所を埋めてしまって良いのだろうか? そんな思いが北斗に即答させる事を躊躇わせた。 「ノーマルの悪魔型でも買ってさ、あたしのパールとお揃いにするのもいいよ、ね?」 「…その内、気が向いたら、な」 「……」 夜宵が消沈するのが分かる。 生まれた時から傍にいる幼馴染だ。 顔を見なくても、それ位は分かる。 お互いに。 「ごめん。あたしが居ない方が忘れられるよね?」 夜宵が立ち上がる気配。 「…悪い。…本当に、気が向いたら神姫やってみるかも知れない」 「うん」 「その時は、相手頼むわ」 「うん」 夜宵の返事は、一度目よりも遠ざかっていた。 「じゃあ、また来るから…」 「ああ」 扉の閉まる音。 それが、途中で止まった。 「もう、姉さんは居ないんだから、ね?」 夜宵がどんなつもりでそう言ったのかは分からない。 ただ…。 少しだけ気になって、窓から外を見る。 夜宵と、もう居ない明日香の家は斜向い。 神凪家の門を出た夜宵が弥涼家の門をくぐるのが見えた。 その後姿は、紛れも無く明日香と同じもの。 「…別人、だ。…夜宵は、明日香じゃない」 口に出して確認しなければ、忘れてしまいそうだった。 明日香と夜宵は、一卵性双生児。 双子。だった。 全15~6話話予定です。 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/842.html
前へ 先頭ページへ 次へ 第十四話 アーマーン 「アーマーン、か。ノウマンも洒落た名前を付けるものだな」 鶴畑家所有の潜水艦内、作戦室。部屋は暗い。 大型プロジェクターがホワイトボードに光を投影し、ぼんやりと光源をなしている。そこに映し出された基地の図面を見ながら、鶴畑興紀は呟いた。 図面は基地にいるときにエイダがハッキングして取得したものだった。詳細な情報は強力なプロテクトがかかっていたが、潜水艦の指揮をとっていた執事が十分なレベルで情報を収集してくれていた。 それは島そのものの名前だった。 「アーマーンって?」 メガネの隙間から目頭を押さえつつ、理音が訊いた。 興紀は四角い小さな眼鏡を掛けて図面を凝視する。 「古代エジプトの幻獣のことだ。アメミット、ともいう。ワニの顔にライオンの上半身、カバの下半身を持つキメラ生物だ。 死者の守護獣だが、実質はほとんどの人間にとって恐怖すべき存在だったようだ。死後の審判で死者の心臓と真実の羽根を天秤にかけ、つりあわなかった心臓を食べてしまうといわれている。ま、真っ当な人間などほとんどいないから、だいたい食べられてしまっただろうな。つまりは閻魔大王みたいなものだ」 「島の名前にしてはずいぶんおかしな語呂ね。ここはエジプト沖なの?」 すると執事がスライドを一つ動かす。 「いいえ、ここは日本からそう遠くない太平洋上です。この島は天然の島ではありません。人工島、メガフロートなのです」 緑色の写真が出た。 「本艦の潜望鏡から見た、アーマーンです」 そこには海原に浮かぶ、人工構造体が写っていた。 理音は島に連れてこられたときのことを思い出した。 あのとき、植物が一本も見当たらなかったのは、深夜で視界が利かなかったからではなかったのだ。 スライドが動き、図面に戻る。 理音はいままで勘違いをしていた。 図面には、理音たちの閉じ込められていた基地の構造が書かれていた。理音はそれが島の一部に建てられてある基地のマップだとばかり思っていた。 それは島そのものの図面であった。 「ちょっとまって」 テーブルに座っていたクエンティンが口を挟んだ。 「アタシ、森を見たわよ。その森の間から飛行船が飛び立つのも」 「おそらくそれは、中庭か何かだろう。職員の厚生施設のひとつなのかもしれん。その下に飛行船発着場が偽装されていたんだ」 興紀がすぐに補足する。 「しかしわからん。こんな大掛かりな構造物がどうして今まで怪しまれなかったんだ?」 「この島はもともと、十年前、二〇二六年に人工リゾート地として建造された娯楽施設なのです」 スライドが変わる。一転して華やかな映像。「世界最大の人工楽園」とキャッチコピーが打たれた、島の広告である。 「中途でポシャった、ってわけか」 頬杖をついて理音がふふと笑う。 「そのとおり。初めは各国からスポンサーが集まったのですが、建造費だけでも予算を五倍もオーバーしてしまい、さらにハワイやドバイをはじめとしたリゾート地から、大規模な自然破壊だ、というのは建前で、客を取られるという理由で大反発を招きましてな」 「リゾート地ってのは普通、ポンポン増えるものじゃないものね。島一個となればなおさら」 「滑稽だな。もともとハワイやドバイだって人の手で開発されてできた土地だ。リゾートなるものは自然にできるものじゃない。反発されたくらいで計画を下ろすなんて、肝が小さいな」 「お坊ちゃま、それではコンツェルンの投資している月面結婚式場はどうなるのですかな」 「ギャーギャーわめく奴には騒がせておけばいい。あれは娯楽施設などではない。大事な人生の門出を祝う大事な式場だ。宇宙へ進出しようとしている人間文明にとって必要なものだよ」 よく言う、と理音は思う。結婚式というセレモニーはもはや一種の娯楽のような一面を持っているというのに。 ましてやわざわざ月面で式を挙げようという奇特なカップルの気が理音には知れなかった。それでも、二〇〇〇年代には一般人にとって夢のまた夢だった宇宙旅行も、驚嘆するほど安価になった。そういった需要が商業的に成立するくらい見込めるのもまた事実だった。これも時代の流れか。 「話を戻しましょう。――そういった経緯で計画は頓挫。解体する費用も出ず、人工島は基礎部分を残して放置されました。管理のために出入りする何人かの人間はいたようですが、それ以外では話題にも上ることはありませんでした」 「で、ある日突然、買いたい、っていう奴が来た」 「ご明察です、クエンティン様」 クエンティンはフフン、と得意そうに鼻を鳴らした。 「それで買いに来た奴ってのは、EDEN本社だったんでしょ? メタトロンプロジェクトの開発基地を作るには絶好の土地だもんね。孤島だから情報封鎖もしやすいし・・・・・・」 「プロジェクトは本社の開発ルームで進められていた」 意外な興紀の一言が差し入れられ、クエンティンは言葉を継げなかった。 「異常な状況が続いていてみんなずれてきているようだが、メタトロンプロジェクトはもともと、単なる『武装神姫の次世代パーツ開発計画』だぞ。確かに社内では極秘計画だが、島をまるごと一個貸し切ってやるようなものじゃない。武装神姫は兵器でもなんでもないからな。・・・・・・じい、島を買ったのはノウマンだな」 「はい。ノウマン、本名リドリー・ハーディマンの個人名義で購入手続きが行われた明確な記録がございます。手続きに立ち会った当時の島の管理責任者にもすでに事情聴取してありますが、『別荘地にでもするのかと思った』と」 「開発ルームでやってきたことは、本社をも欺くためのデコイだったのかもしれんな。ルームにはプロジェクトの人員しか入れないし、その中でも中枢部には中心メンバーしか立ち入ることはできないのだろう。中で何をやっているかなんて、プロジェクトメンバーでなければたとえ上層部でさえも把握していないんだ」 「それじゃあ、あなたも入れないんじゃなくて?」 「筆頭出資者は自動的に中心メンバー並の立場におかれるはずなんだ。いままでのEDEN本社の通例ではな。何と言ったって一番必要な金を提供しているのだから至極当たり前のことだ。内容を知らなければ出資する気になれない。そもそもオフィシャル武装神姫開発のときだって、筆頭出資者である鶴畑コンツェルンは中心メンバーレベルの発言権を有していた。 それが今回はまったく蚊帳の外だ。てっぺん経由でプロジェクトメンバーに要請をしてもみたが無駄足だった」 「社長命令でも無理だったってことなの?」 「本社の制度はちょっと特殊でね。ここだけの話だが、メタトロンみたいな重要プロジェクトなどは、発足後は人員の進退をはじめとしたプロジェクト内でのやりくりが中心メンバーに一任されるんだ。たとえ社長でも勝手にメンバーの解雇や増員をすることができない。できるのはプロジェクトの中止ぐらいだが、そんなことをしたら社運に関わる。 EDEN-PLASTICSという企業は巨大すぎるのさ。デカいプロジェクトは実行されたならば是が非でも成功させなければならない。そのための制度なんだ。だからプロジェクトの立案から実行までは長いスパンが置かれる。うちもその間に出資を決め、そうした。だが計画が実行されたとたん、プロジェクトチームはだんまりを決め込んだ。実行後は出資を取りやめることなどできない。EDENが潰れたらうちも危ないからな。だから、独自に情報収集活動を行った。いや、もはや諜報活動といっていい。その過程で、中心メンバーの一人を買収することに成功し、造反の計画を察知し、プロトタイプの一体にとある情報因子をインプットすることに成功した。そのプロトタイプが、エイダだ」 ちらり、とクエンティンを一瞥する。 「エイダには機を見て開発ルームから逃げ出すよう仕向けさせる情報因子を紛れ込ませた。プロトタイプがちゃんと開発ルームで作られていたのが幸いだった。先ほど言ったデコイ、というのはノウマンにとっての、という意味だ。ノウマン以下造反グループに参加した中心メンバーは、開発ルームでプロトタイプを建造する裏で、あの島の整備や人員集めをやっていたのだろう。そして肝心のプロトタイプも、武装神姫としてではなく、ほとんど兵器として作られてしまったわけだが――」 「ちょ、ちょっとまってよ」 あわててクエンティンが口を挟んだ。 「エイダが本社から逃げ出してきたのは、アンタが仕組んだことだっていうの?」 「そうだ」 「なんでいままで黙ってたのよ!?」 「話すかどうか決めあぐねていた。お前はただの事件に巻き込まれたかわいそうな神姫で、理音嬢はそのオーナーでしかなかったからな。今は・・・・・・」 理音を一瞥。 「話す気になった。それだけだ」 「わっかんない。アンタ一体なに考えてるの?」 「クエンティン、もういいでしょう」 理音が叱った。彼女は興紀の視線に気づいていた。 「お姉さま・・・・・・」 クエンティンはきょとんとしていたが、そのままふくれっつらで黙ってしまう。 「じい、続けろ」 「はい」 スライドが二つ動く。 何かの間略図のようなものが現れた。 中心に島らしきアイコンがあり、その両脇に狼のようなアイコンとヒヒのアイコンが線で繋がっている。それだけである。注釈などのような文章は無い。 「なんだこれは?」 「諜報部が入手した図面です。詳しいことはまったく分かりません。ですが、中心のアイコンはアーマーン。狼はジャッカルで、タイプ・アヌビス。そして、ヒヒはトート神で、タイプ・ジェフティであることが推測できます」 「一体どんな意味なんだ」 「さあ、今のところはどんな説も推測の域を出られず、提示してもただ混乱するだけでしょうし・・・・・・」 『これは――』 今まで発されていなかったその声に全員の視線が向いた。 クエンティンに。 そしてクエンティンは自身の胸元を覗き込むようにしていた。 「エイダ、話せるの?」 『はい。デルフィがある程度の情報プロテクトを解除してくれました。――これは、アーマーンの制御構造図です』 「お前たちプロトタイプ二体が、この島を動かす鍵になっているというわけか」 『はい。ただし、発動キーはデルフィに与えられ、私は動かすことができません』 「じゃあお前は」 『私に与えられたキーは、停止キーです』 それで部屋の空気が張り詰めるのをクエンティンは感じた。 興紀が額を押さえてため息をついた。 「ノウマンが渇望するわけだ。どんなに作戦が進行しようと、ジェフティが外部にいればいつでも停止される危険性がある。だが、だったらはじめから壊しておけば良いだろうに」 『デルフィの発動キーは、私が存続していないと有効にならないのです』 「でも、少しうかつすぎやしないかしら」 理音が釈然としない顔をしながら手を挙げた。 「私なら、万が一を考えて両方に起動キーと停止キーを与えて、どちらか一体でも動かせるようにするわよ」 『私たちが独自に実行した対抗措置です。起動直後から強制命令プログラムを植え付けられるほんの一瞬の間で、事実を把握しつつできる唯一のことでした。その後、デルフィはプログラムによって造反グループに参加せざるを得なくなり、私は情報因子が働き脱出することに成功しました』 会議室を緊張を伴った沈黙が漂う。プロジェクターが消され、しばしの暗闇の後、照明が灯された。光度の変化に一同が目を狭めた。クエンティンだけはそうする必要がなく、ただ自身の胸元の、エイダのAIが入っている球体を見つめていた。 やがてメガネを胸ポケットにしまって、興紀が椅子をぎりりと鳴らして立ち上がった。 「作戦はじいの立案どおりに行う。人間は人間で、神姫は神姫で対処する」 「アタシの言いたいこと分かってくれたの?」 「私だって神姫オーナーだ。神姫は物だが、物ゆえの愛着すら無い、とは言っていない。――この事件が終息したら、ビックバイパーのデチューニングをするつもりだ」 「しかし、お坊ちゃま。エイダの立場が分かった以上、そうするよりは・・・・・・」 執事が何か言いたげに呼び止める。エイダが半ば恐ろしげにそちらへ注意を向けるのが、クエンティンに分かる。 が、興紀は手を向けて制した。 「立案どおりだ」 そのまま出入り口へ向かう。スライドドアが開いたところで、振り返る。 「EDEN本社の私設軍が集結するまで三時間はかかる。それまで休息をとっておくんだ」 「そんな暇ないわよ」 立ち上がるクエンティン。 「アンタも見たでしょ? あの飛行船群は今にも発進しそうなのよ。すぐにでも行かなきゃ・・・・・・」 「あれはまだ発進しない。向こうは必ず準備を万全に整えてからやる。それはこちらも同じだ。確かにお前は切り札だが、たった一体で行ってもどうにもなるまい」 「でも!」 『鶴畑興紀の言うとおりです、クエンティン。第一、ゼロシフトのプログラム因子の着床が済んでいません』 そう言われて、デルフィに会ってからずっと、リソースの三分の一を占めている処理実行中のプログラムを思い出す。 『造反グループは必ず私たちにタイプ・アヌビスをぶつけてきます。性能的にも差が残っていて、かつ相手のゼロシフトに対抗できない今の状態では、万が一にも勝てる見込みはありません』 「もしも作戦実行までに着床されなかったら?」 『そのときは現状のままで戦うしかありません。しかし、私たち一体で出撃するのと、ルシフェル、ミカエル、ジャンヌ、そしてノーマルとはいえファントマ2アタッチメントを装備した多数の武装神姫が共に侵攻すれば、ある程度の勝機は見込めます』 「どっちにしろギリギリか。現代戦にはありえない戦況よね」 「まったく新しい戦いになるだろうな。問題は、向こうは人間と神姫の混成部隊でやってくるだろうということだ。こちらには絶対に侵してはならないルールがある」 「その懸念はほとんど無いでしょう」 「なぜだ、じい」 「屋敷での戦闘で鹵獲したラプターで実験してみましたが、完全武装の兵士が持つ銃にはラプターの装甲は耐えられません。また兵士には神姫の頭脳の量子活動を阻害させるEMP発振機を装備させます。以前のバーチャルバトルで大紀様がお使いになった、あれです。向こうも十分承知の上で編成を組みます。こちらも向こうも、人間と神姫は自然に分離するでしょう」 「それでもしも混成部隊が出たら」 「お坊ちゃま、ある程度の間違いは仕方がありません。汚い話ですが、いざとなればいくらでも隠蔽できます。作戦が成功すれば、の話ですが」 「汚いことはずいぶんやってきた。あとはこの小さな切り札が納得してくれればいい」 興紀の鋭い視線がクエンティンを見据える。 いや。 これは懇願のまなざしだ。クエンティンは気づいた。 彼でも不安なのだ、この状況は。成功するかどうかも分からない作戦など、おそらく普段でも、今までやったことなどなかったから。 「・・・・・・アンタは、ルールを守りたい人なのよね」 「そう言ったろう。作戦に参加する兵士全員にも徹底させる。やむをえない場合を除いて、だが」 クエンティンは首を垂れて考える。 できるなら、神姫と人間とを合間見えさせることは一度たりとも起こしたくない。 しかし、戦闘状態にあって絶対は無いこともまた知っている。試合とはいえ、ほとんど実戦に近い経験を武装神姫はしているから。 自分の線引きが、作戦の難しさを決定する。 興紀は出入り口に立ったまま、待ってくれていた。 誰も急かすようなことはせず、数分が過ぎた。 そして、クエンティンは答えた。 「――ルールは絶対」 興紀が息を呑む音が聞こえた。 「でも、やむをえない場合はかまわない。だからって全部やむをえなくしちゃだめ」 「そうか」 そのときクエンティンはわが目を疑った。 興紀が笑ったのである。 いつも人を射抜くような目つきが、ほんの一瞬、ほころんだだけであったが。 腰の力が抜けて、クエンティンはテーブルに尻餅をついた。 スライドドアが閉まって、興紀の姿が見えなくなっても、クエンティンはきょとんとした表情で座り込んでいた。 ふいに体が持ち上げられる。理音であった。 「さ、貴重なお休みよ。満喫しなきゃね」 「・・・・・・うん」 理音の手のひらの上で、クエンティンは横になる。彼女の体温が、張り詰めっぱなしだった神経の糸をほぐしてくれた。 二人は自室として用意された副長室へ向かう。 最後に執事が消灯して退出し、会議室は静かになった。 つづく 前へ 先頭ページへ 次へ